第三世界国際列車
やがて、列車は北朝鮮国境へ近づく・・・
この国際列車の「アナウンスメント」は、中国語、朝鮮語、ロシア語、英語で、そして、その順番でする。
鴨緑江に面する中国最後の都市、丹東に着くまえには、ここには「アメリカの侵略」に対してたたかって倒れた中国人兵士の「烈士」の墓地があるとその四ヵ国語の「アナウンスメント」は教えてくれる。朝鮮戦争のときのことを言っているのだ。あのとき、百万人に及ぶ中国人(たいていが若い人たちだった)が、「抗米援朝」の叫びとともに義勇軍兵士として朝鮮へ行き、「アメリカの侵略」とたたかうなかで倒れた。
歴史認識が違う。北朝鮮が憎むべきは、「ロシアの搾取」である。
私が何故今さらのようにこのことを書くかと言うと、歴史は無数の人びとの努カによって変えられるものであることを言っておきたいからだ。
そうだろうとも。
ロシアの傀儡政権を担う金日成の下で、歴史は捏造されたのだから。
昼食は朝鮮食堂車でとった。タンザニアの留学生、メキシコの外交官夫妻、キューパの通商代表一家、カンブチアの留学生、それから中国人のもと義勇軍兵士と彼の朝鮮人の奥さん、さらには二人のあいだの中朝混血児の息子・・・私以外はすぺて「第三世界」人である。気がつくと、タンザニアの留学生とキューパの通商代表が朝鮮語でしきりにしゃべりあっている。
ここで「北朝鮮」の外交政策をとやかく論じ上げるつもりはない。日本では、「北朝鮮」と言うと、韓国とのからみやら、中国との関係やらでことを論じがちだが、もうひとつ、あの国、世界の現状、未来をちがった眼で見ているところがある。それは言わずと知れた「第三世界」とのかかわりだが、そこにおいての世界認識だが、「北朝鮮」は自分自身をふくめて「第三世界」に世界の未来があると考えている、そこに自分の未来をも賭けようとしている。
そして未来を賭けた結果がどうだったかな?
豊かになった「北朝鮮」
いよいよ北朝鮮に乗り込んだ小田実が街を歩く
実は、私は八年前にも「北朝鮮」を訪れたことがある。
そのときとくらぺて目立ったちがいは、金日成氏の息子さん(注:つまり金正日)が正式に「後継者」の位置についたことだが、日本の新聞、雑誌はそのことしか論じ上げないが、もうひとつ大事な変化は、人びとのくらしがゆたかになって、万事にゆとりができてきたことだ。
どういう感じだろうか?
まず、店に商店が増えた。立派な百貨店もできていて(注:おそらく外人向けのショーウィンドウである楽園百貨店)、私はそこでワイシャツを買った。
チェックのワイシャツで、日本へ帰って来てから、これは外国製品「舶来」のものだがどこの国のものかと訊いてまわるのだが、たいていがアメリカと答える。それから、もちろん、イタリアだ。
おまけに私は北京でつくった上衣を着ている。
こちらもなかなか酒落ていて、たいていの人の答はイタリア製だ。 ・・・ピョンヤンの百貨店では、もうひとつ買い物をした。
それは小さなオペラ・グラスで、倍率は二・五倍。
けっこうよく見える。デザインもわるくない。
ワイシャツが良くできていて、イタリア製?
チンダルレのマークは付いていなかったのか?
SHARPのカラーテレビにツツジのマークを貼り付けた、立派な工業大国は、
何故、自国の生産品を誇れないのだ?
イタリアがそんなに良かったら、オペラでも何でも見に行けばよかろう。
街のくらしもゆったりとしてきた。
・・・といって、さらに小田実の北朝鮮賛美は続く。
八年前にはなかったものだが、ピョンヤンの市内には地区ごとにレストランができて、人ぴとは気軽に入って食事をしている。喫茶店まがいのものもあちこちにできている。
ほほお、そうかね。
週に二度、水曜と土曜の夜に、また、あれはなんと呼んでいるのか、また、呼んだらいいのか、野外の「ダンス・パーティ」をいろんなところでやっていて、けっこうなにぎわいだ。ダンスは、フォーク・ダンスとディスコ・ダンスの中間というところか。
若い男か、いやがる(と見せかける)女性の腕を取って踊りの輪のなかに引きずり込む。そういう光景を私は何度も見た。
一度はこっちが女性に引きずり込まれて踊らされた。
何しろ歌と踊りのうまいのが天性だという民族だ、矢つぎ早に曲は変って、そしてつづいて、くたくたになった。
結局、外人向けのデパートで買い物をして、ピョンヤンというショーウィンドウを見て回っただけの取材だ。 挙句の果てに、こんなことをのたまっている。
これだけのゆたかさをとにかく「北朝鮮」は、外国から借金をすることもなく、外国の援助に頼ることなく自カでかたちづくってきたのである。しかも、すぺては日本の植民地化のなかで収奪され、そのあと朝鮮戦争で全域にわたって徹底的な被害を受けたあとでのことだ。
断っておくが、 万景峰号以前から、日本の在日愛国的朝鮮人の手によって、
手厚い援助が北朝鮮に対してなされてきたのであって、
北朝鮮は日本からの物資が無ければ、干上がってしまう国であることを小田実は無視している。
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