さくらの凋落
サクラは詐欺のコラボレーションとして高いスキルが要求されるカテゴリーである。
ひとりの才能だけでは難しく、漫才の相方の様にあうんの呼吸や時にはアドリブも必要になる。
最近、サクラを見る機会は減って、秋葉原駅前のアイデア商品の物売りとJRAのWINS後楽園前の競馬予想誌売りぐらいしか見かけなくなった
ただ、彼らはあまりうまくない。
それと見てすぐサクラとわかってしまう。
秋葉原駅前の場合は、何故すぐにわかるかというと、サクラが男だからだ。
考えても見て欲しい、売っている商品が、野菜の千切りや細切れが簡単にできるキッチンカッターや
汚れが簡単に落ちるクレンザーなどである。
いくら素晴らしい商品だからといって、男が夢中で見て質問したりするだろうか?
また、後楽園の予想屋の場合、場所柄結果がすぐに出てしまう。
「予想屋が予想した通りに買ったけど、次のレースは外れた。」と苦情を言ってくる連中がいるのである。
その時、サクラは店の当主より凄い剣幕でクレーマーを押さえつけようとすごむ。
そりゃあもう、怖い。ヤクザと紙一重だ。
ここでは、古きよき時代のサクラのお話をしたい。
ゾーリンゲンの刃物
ある男が、上野駅の駅前で泣いている。
男が座っている路上には、ナイフ、フォークなどの食器やバリカン、刃物などが白い布の上に並べられている。
どうした、どうした、とはやしたてる男がいて、人だかりができる。
人が増えたところで、
「おい、兄さん、どうしたい?泣いてちゃわからねえじゃないか。何があったかしらねえが、
わけを話してみな。聞くぐらいは聞いてやろうじゃねえか、なあ。」
と群集に呼びかける男がいる。
泣きじゃくっていた男は、話し始める。
「実は、勤めていた工場が、不況で倒産してしまいました。」
「ほう、そりゃあ大変だなあ。で、これからどうするんだい?」
「行くあてもないので、田舎の山形に帰ろうと思ってここまで歩いてきました。」
「ほう、兄さん、郷里は山形かい。それで上野から寝台車で帰ろう思ったんだな。」
「ところが、お金がありません。倒産したので退職金も出なかったんです。
上野まで来たものの切符が買えなくて・・・・」と泣く。
「可哀相になあ、でも、俺も金の相談には乗ってやれねえし・・・。
で、ここに置いてある金物はなんだい?」
「これは、退職金代わりに工場に残っていた在庫を社長がくれたものです。
せめて電車賃になればとここで売ろうと思ったのですが・・・売れなくて・・・
今日寝る宿代もないし、途方にくれて・・・」男は大声でまた泣き出す。
さらに人だかりは大きくなる。
そこへ、白衣を着た男が登場する。
「おい、兄さん。」白衣の男は並べられた刃物を手に取る。
「・・・ふうん、いや、これは。」
白衣の男は目を輝かせる。
「これはゾーリンゲンの刃物じゃないか!実は、わたしはすぐそこで床屋をやっているものだが、
こんな素晴らしいバリカンやカミソリは見た事がない。ちょ、ちょっと待っていてくれないか?
今、金がないので、取って来る。ここにあるもの全部買うから、誰にも売らないで待っていてくれ。」
と言いつつ、白衣の男は去る。
「よかったなあ、兄さん」事情を聞いてくれた最初の男が言う。「世の中捨てたものじゃないな。」
そこで、3人目の男が登場する。
「でも、あの床屋に独り占めさせるのはもったいない。そんなにいい刃物なら俺にもくれないか?」
そうだ、そうだと声が上がる。
「俺にもくれ、今金があるからあの床屋より先に買うから。」と千円札を差し出す。
「おい、俺にもくれ。」
「俺にも。」
・・・そして、4番目以降に買った人間が騙されている。
泣いている失業者、事情を聞いた男、白衣の床屋、と我先にお金を出した3人目までの男が共犯者である。
その後、売れた刃物の代金を元に上野の飲み屋街で6人が酒盛りをしている。
よく考えると、工場の在庫品は日本の町工場だから、ゾーリンゲンの刃物であるわけはないのだが、
集団心理から、騙されるものである。
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