ヘナチョコな詐欺師A

生活工房は、等身大の生活情報ポータルです

ラッキー賞

ある日、上京したての私は、映画鑑賞に出かけた。場所は、上野駅前の映画館である。

かねてからエロスという命題を西洋人はどう表現するのかという学術的見地から、研究しようと思ったのである。 高校時代、田舎の映画館で日本のエロス表現については調査をしたことがあったが、 洋モノには縁が無かった。

チケット売り場で胸は高鳴った。

わたしは法に触れることはしてない。ちゃんと18歳になったし、誰はばかることなく研究をしようとしているのだ。 そう思って、チケットを購入し、薄暗い場内へ入っていった。

「はい、一枚引いてください。」

と、チケット売り場の後ろから声がする。

わたしはどきっとした。見知らぬ私に話し掛けてくる男がいる。

わたしは無意識に映画館に入ったことへの負い目を持っていたと思う。 態度も卑屈になっていたのだろう。 見ると、その男は、きちんと背広を着て、入場口のそばにくじ引きの箱と商品を陳列していた。

「なんだ、サービスなのか。」内心ほっとした。

きっと、入場した人に何か当選するサービスをやっているのだと思った。 さすが東京である。田舎ではないサービスだ。

入場券の半券を見せると男は、見もせずに、

「何か書いてあったら、当たりです。書いてなかったら、ハズレね。」

わたしは一枚のくじを引いて、男に渡した。

男が渡されたくじを開くと、そこには、「ラッキー賞」の文字が躍っていた。

「おめでとうございます、ラッキー賞です。」

「やった、ついてる。」わたしは素直に嬉しかった。何がもらえるのだろう?

「さあ、ラッキー賞はですね」男は続けた。

「ここにある真珠のどれでもお好きなものをひとつ差し上げることになっています。」

わたしは目を輝かせた。真珠が?わたしは宝石というものに今まで縁が無かった。

田舎のおふくろに似合うかな?でも、ポルノ映画館でもらったとはいえないしなあ。 アルバイトして買ったって言おうか?でも、それなら学費にあてなさいって言われそうだし。 そうだ、彼女ができたらあげることにしよう・・・。

わずかの時間にこれだけのことが頭をよぎっていった。 そこに並べられた真珠のネックレス、指輪の数々・・・。

「本当にもらえるんですか?」

「ええ」男は説明した。「ここに並んでいる真珠は国内産の最高品質のもので、 今回は特別に無料でご提供しております。」

タダなんですね?」わたしは喜びをおさえながらもう一度念を押した。

「ええ」男はまた同じ説明を繰り返す。「ここに並んでいる真珠は国内産の最高品質のもので、 今回は特別に無料でご提供しております。」

・・・わたしは、同じ説明が2回あったので少し不思議に思った。

「本当にタダなんですよね?」

「ええ」男はまた同じ説明を繰り返すと、「さあ、どれにするか決めてください。」

「タダなんですか?」

すると男は、こう説明した。

「ここにある真珠はすべて無料ですし、付いている指輪や鎖も特別に無料となっています。」

「真珠がタダで、金具もタダということは、もらえるんですよね?」

少し不安になってきていた。

「ええ」男はこう切り出した。「金具もタダですが、今回ラッキー賞に当選された方には 真珠の加工料として、 本来は5万円のところ、特別に5千円でやらせていただきます。」

ときた。

やはり・・・、話がうますぎると思った。

「じゃあ、いいです。お金ないですから・・・。」

と断った途端に男の態度が急変した。

「お客さん。」館内に入ろうとしたわたしの腕をがしっと捕まえて男は言った。 「5万円って言ってるんじゃないんだよ、ええ。たったの5千円だよ。」

わたしは夢中で男の手を振り解き、映画館の暗い館内へ逃げ込んだ。

しばらくは、目の前で繰り広げられているエロスの表現について研究する余裕も無く ガタガタ震えていた。

幸いにも、映画が終わるまで何事も無く、映画が終わると男の姿は無かった。

 

この手の詐欺師を見たのは、5年程前に江ノ島の流行らない土産物屋の前で見たのが最後だ。

ただ、この手の手口は、携帯電話の勧誘でも使われている。注意されたい。

おすすめ


Copyright(C) 2004 - Akio Yutobi All rights reserved.