怖いダフ屋さん
わたしは以前、東京ドームがまだ後楽園球場だった頃、あろうことか
ダフ屋に野球のチケットを売りに行ったことがある。
(ちなみにもう時効である。)
ダフ屋のお兄さんは、販売と購買を兼業している。
掛け声はこうだ。
「はい、チケット余ったら、買うよ、チケットない?」
「チケットなければ、はい、割引になるよ、安いよ。」
つまり、中古販売のお店に決まり文句のように書いてある「高価買入・廉価販売」という
二律背反の命題を、口語体かつ浪花節トーンで営業しているのである。
持っていたチケットは、取引先から頂いたもので
巨人対大洋戦のバックネット裏の結構いい席だった。
当時の巨人戦はプラチナチケットと言われていた。
しかし、わたしはパリーグの試合しか興味が無かったので、売りに来たのだ。
腹積もりは1万円だった。
「余ったら買うよ、チケットない?」
というダフ屋のお兄さんに売ろうと思ったが、いざ、声をかけようとすると
その風貌の怖いこと怖いこと・・・・。
剃り込みでパンチパーマ、眉毛もきれいに手入れがされているお兄さんがうようよしていた。
その中から少しでも弱そうなチンピラ風のダフ屋に当たってみた。
すると、「どれ?」と
いきなりチケットをひったくられて、
「こんなの」ダフ屋は言った。「チャリだね。」
最初、意味がわからなかったが、チャリ=硬貨ということらしい。
つまり千円以下だという交渉なのだ。
わたしは毅然とした態度で「なら、売らない。1万円だ。」と火事場のくそ力ではないが、チケットを取り返した。
ダフ屋は、しぶしぶ応じて、しわくちゃな千円札10枚を胴巻きから差し出した。
で、渡すかと思うと、 「8000円だね。」
という。
わたしは、「10枚だよ。」と一歩も引かない。
かくして10枚をひったくるように受け取ったわたしは、チケットを渡すと、一目散に水道橋駅へ逃げた。
足が震えて止まらなかった。
かくして、何とか目的は果たしたが、そのチケットにしたって、欲しいお客に数倍に化けて売られたに違いない。
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